◉ AI×キャリア・仕事 / 2026年06月

2035年と2045年の4月1日──AIが変えた世界の報道と、ある人物の一日

2026年06月16日 読了目安:約28分 著者:AIFRONTNEWS編集部 2035年 / 2045年 / AIシナリオ

あなたの子どもや孫が生きる世界は、今とどれほど違うか。

前回の記事で描いたように、AIが人間の生産性を超える転換点は「7年後」に迫っている。その先の2035年、さらに2045年の4月1日、世界のニュース画面には何が流れ、人々はどう生きているか。

本記事は、産業革命・BI実験・Goldman Sachs・WEFのデータを起点に、ふたりの人物の「ある一日」と、その日の「良いニュースと悪いニュース」を具体的に描く。これはフィクションではなく、現在進行中のトレンドを延長した最も蓋然性の高いシナリオだ。

📌 この記事でわかること

  • 2035年4月1日、世界と日本の社会状況の具体像
  • 2035年に報じられるであろう良いニュース3本・悪いニュース3本
  • 元銀行員・田中誠(42歳)の2035年4月1日の一日
  • 2045年4月1日、AI社会が成熟した世界の状況
  • 2045年に報じられるであろう良いニュース3本・悪いニュース3本
  • 「人間体験キュレーター」山田さくら(28歳)の2045年4月1日の一日

━━ 2035年4月1日──転換期の只中にある世界

2035年のデジタル都市、AIと共存する近未来社会のイメージ
Photo by Denys Nevozhai on Unsplash

2035年の世界は「嵐の目」にいる。AI革命の最初の衝撃は2027〜2031年に集中し、ホワイトカラーの雇用が目に見えて消えた。各国政府は対応を迫られ、2032〜2034年にかけて主要先進国が「AIトランジション法」に相当する法整備を急ピッチで進めた。2035年4月時点で、世界はまだ移行の痛みの中にあるが、新しい枠組みがぎこちなく動き始めてもいる。

数字で見るとこうだ。ILO(国際労働機関)が2035年3月に発表した最新報告によれば、OECD加盟国の公式失業率は平均11.4%(2026年比+5.2ポイント)。ただしこの数字には「不完全就業」(週10時間以下の就業者)や「AI補助収入受給中の非就業者」は含まれない。実態に近い「就労不足者」の比率は約23%と推定される。

日本の状況は独特だ。少子高齢化による慢性的な人手不足が「AI失業の緩衝材」になった一方で、「介護・保育・建設」の人材と「AIに代替された事務職人材」のミスマッチは深刻化している。2034年に施行された「デジタル労働移行支援法」により、離職者への最長3年間の再訓練給付(月15万円)が始まったが、予算の3倍以上の申請が殺到し、承認率は42%にとどまっている。

明るい側面もある。AIが担った業務による生産性向上で、企業の一株当たり利益は過去10年で平均2.3倍になった。課題はその果実が誰に分配されるか、だ。上位1%の資産保有比率は2035年時点で世界全体の富の47%に達している(2026年比+9ポイント)。「豊かな社会の中の格差の拡大」が2035年の本質だ。

【2035年4月1日 良いニュース】

ベーシックインカム導入を報じるニュース、社会保障の新時代
Photo by Markus Winkler on Unsplash

📰 本日の主要ニュース(明るい面)

  1. EU、2036年からの「ユニバーサルBI」本格導入を発表

    ブリュッセル発── 欧州委員会は本日、EU27カ国を対象とした段階的ベーシックインカム導入計画を承認した。第一フェーズでは2036年1月から失業者・低所得者を対象に月額800ユーロを支給、2040年までに全成人に拡大する予定。財源はAI企業への「デジタル労働税」(企業のAI自動化によるコスト削減額の15%)で賄う。フォンデアライエン委員長は「これは福祉ではない。技術革新の恩恵を全市民が受け取る権利だ」と述べた。

  2. AIが発見したアルツハイマー治療薬、世界89カ国で承認

    ジュネーブ発── WHO(世界保健機関)は本日、AIドラッグディスカバリー企業Insilico MedicineとDeepMind Health共同開発のアルツハイマー型認知症進行抑制薬「MemGuard-7」を承認したと発表した。2028年の開発開始から6年7カ月、従来の新薬開発の3分の1以下の期間で実現した。世界5,500万人の認知症患者の進行を平均62%遅らせる効果が臨床試験で確認されており、日本は5月から保険適用となる。

  3. 日本、「地域貢献ポイント制度」全国展開へ──ケアワークに初めて公的報酬

    東京発── 厚生労働省は本日、2033年から試験運用してきた「社会貢献ポイント(SCポイント)」制度の全国展開を発表した。育児補助・高齢者の話し相手・地域清掃・子どもの学習サポートなど、これまで無償だったコミュニティ活動にポイントが付与され、税の控除や公共サービスの優先利用に転換できる。月100時間の活動で最大5万円相当。AIが「経済的価値」を産出する一方で、AIが担えない「人間的価値」を社会が初めて公的に評価する仕組みだ。

【2035年4月1日 悪いニュース】

AI失業問題と社会不安、デジタル格差のイメージ
Photo by Saw Wunna on Unsplash

📰 本日の主要ニュース(困難な面)

  1. フィリピン、BPO産業崩壊で130万人が収入を喪失──支援求め国連に提訴

    マニラ発── フィリピン政府は本日、AI導入によるBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)産業の崩壊について国際的な賠償枠組みを求め国連仲裁裁判所に提訴したと発表した。2028〜2033年の5年間でフィリピンのコールセンター・データ処理・文書管理を担っていた130万人が職を失い、GDPの7.2%が消えた。「先進国のAI企業が利益を得る一方で、グローバル・サウスが犠牲になっている」とマルコス大統領は述べた。AI先進国からの「デジタル移行支援基金」設立を要求している。

  2. 「ゾンビ企業」急増──AIで利益は出るが雇用ゼロの法人が日本で3万社超

    東京発── 東京商工リサーチが本日発表した調査によると、従業員ゼロまたは1名で年商1億円超の「AI駆動型ゾンビ企業」が日本国内で3万2,000社を超えた(前年比+67%)。これらの企業はAIエージェントが受注・制作・請求・経理のすべてを担い、オーナーは年間100時間以下の「監視業務」のみで高収入を得る。課税・社会保険料・雇用創出の義務をほぼ負わないこれらの法人の増加が、社会保障財源をどう侵食しているかが問題になっている。

  3. 若年層「意味の危機」が深刻化──30歳未満の抑うつ有病率が先進国平均18%に

    ロンドン発── WHOの最新メンタルヘルス報告書は本日、先進国における30歳未満の抑うつ有病率が2026年比で約2倍の18.3%に達したと発表した。原因の筆頭に挙げられたのは「目標喪失感(Purpose Deficit)」だ。「努力して資格を取っても、その職種そのものが消えていくかもしれない」という不安が、若者のキャリア形成意欲を根底から揺らしている。次点は「SNSでのAI生成コンテンツとの比較による自己評価の低下」と「BI待機者が増えたことによる職場競争の激化」だ。

【2035年4月1日】田中誠(42歳)の一日──大阪・元銀行ローン審査員

元銀行員が地域コミュニティで新しい役割を担う一日のシーン
Photo by Zach Reiner on Unsplash

午前6時15分。田中誠のスマートフォンが鳴る。アラームではなく、「今日の活動予定確認」の通知だ。

田中は2031年3月まで、大手地方銀行の個人ローン審査部門で14年間働いていた。住宅ローンの審査書類を読み、顧客の収入・支出・担保・信用スコアを総合的に判断して可否を決める仕事だ。AIが導入されたのは2029年で、最初の1年は「AIの推奨を人間が確認する」体制だった。しかし2030年に審査精度がベテラン審査員を上回ったというデータが出ると、2031年3月に部門の45名が一斉に「業務終了」を告げられた。田中はその一人だ。

42歳、妻と中学2年生の息子がいる。住宅ローンが残り1,600万円。退職金は300万円。

最初の6ヶ月は混乱した。履歴書を書くたびに「AIに代替可能な経験しかない」という壁にぶつかった。2032年1月、ようやく「デジタル労働移行支援法」に基づく再訓練給付(月15万円)の申請が承認された。倍率2.4倍の抽選だった。

選んだ再訓練先は「メンタルヘルスサポートワーカー」だ。AIが経済的な不安を増幅させた世界で、精神的に苦しむ人は急増している。人間が人間を支える仕事への需要は、むしろ増えていた。

――

午前7時30分。田中は自転車で15分の距離にある「大阪市AI移行サポートセンター」に向かう。センターは2033年に市が設立した施設で、AI失業者の相談・再訓練・コミュニティ形成を担う。田中は週3日、ここで「同じ境遇の人々の話を聞く」ピアサポーターとして働いている。1回2時間のグループセッション、月8万円の謝礼が支払われる。「SCポイント」として追加でも付与される。

今日の相談者は5人。55歳の元公認会計士、38歳の元法律補助員、29歳の元Webデザイナー、43歳の元カスタマーサポートリーダー、そして49歳の元中間管理職だ。属性は違うが、語ることは同じだ。「何者でもなくなった気がする」。

田中自身、2年前はまったく同じことを言っていた。だから話が聞ける。資格があるからではなく、経験があるから聞ける。これがAIにはできないことだ、と田中は最近ようやく思えるようになった。

午後1時。昼食を挟んで、今度は大阪府立職業訓練センターで「臨床心理士補助資格」取得の授業がある。週2回、あと1年で取得できる見込みだ。資格があれば月収は現在の23万円(給付15万円+謝礼8万円)から30〜35万円に上がる。今の生活は「貧しくはないが豊かでもない」水準だ。妻も週4日パートで働き、合わせて月45万円。ローン返済・教育費・食費で残るのは5万円ほど。老後の貯蓄はできていない。

午後4時。センターで夕方のグループセッションをもう一件担当し、帰宅。

午後6時30分。息子の夕食を作りながら、ニュースを確認する。「EU、全市民BIへ」の速報が目に入る。「日本はいつだろうな」と思う。来月の市議会でBI本格導入の請願書に署名する予定だ。

午後9時。息子が寝た後、田中は日記を書く。銀行にいた頃は「忙しくて書けない」と思っていたが、今は毎日書いている。「今日、相談に来た元会計士の男性が、初めて笑った。それだけで今日は十分だった」と書いた。

銀行員だった頃と比べると年収は半分以下だ。しかし田中は「あの頃より充実している」と感じている。それが正しいことなのか、それとも貧しさに慣れてしまっただけなのか——まだ答えは出ていない。

「豊かさとは何かを、私たちの世代は最初から問い直さなければならなかった。それは不幸なことだったかもしれないが、ある意味では幸運だったかもしれない」
— 田中誠(仮名), 2035年4月1日の日記より

━━ 2045年4月1日──成熟した嵐の後の世界

2045年の成熟したAI社会、人間とAIが共存する日常
Photo by Gabriele Malaspina on Unsplash

2045年の世界を2035年と比較すると、嵐は過ぎていた。ただし「嵐が過ぎた」と「傷が癒えた」は同じではない。

2045年時点の主要国でBIまたは類似の普遍的所得保障が実施されている。EU全域では月800〜1,200ユーロ(国によって差がある)。カナダは2038年から月1,500カナダドル。日本は2041年に「AI社会配当制度」として月20万円が全成人に支給されるようになった(物価上昇を加味すると2026年比で実質15万円程度)。財源の柱はAI企業・データ経済への「デジタル資本税」と、増大した法人利益への課税だ。

経済の構造も変わった。GDPは2045年も伸び続けているが、その「担い手」は企業のAI資本が大部分だ。人間が直接「経済的産出」に関与する割合は先進国でおよそ35〜40%。残り60%超をAIが担う。これは1900年代の農業人口比率の逆転(農業が経済の中心から工業に移った)と構造的に同じだが、速度と規模が違う。

新しい価値軸が生まれた。「人間がやったこと」「人間が作ったもの」に対するプレミアムだ。AIが99%の文章・絵・音楽・コードを生成できる世界では、「人間の手仕事」「人間の会話」「人間が料理した食事」に希少価値が生まれる。日本の「人間手作りタグ(HMタグ)」認証制度(2040年開始)は、AI非介入の商品・サービスに付与され、平均価格は無印の2.3倍だ。

ただし2045年は「解決した世界」ではない。「豊かさ」の意味が変わったことに人間が追いついていない、という新しい苦しみがある。

【2045年4月1日 良いニュース】

人間中心の新しい経済指標、貢献経済の時代
Photo by UNICEF on Unsplash

📰 本日の主要ニュース(明るい面)

  1. 世界初「人間貢献指数(HCI)」が国連経済指標に採用──GDPに並ぶ尺度として

    ニューヨーク発── 国連統計委員会は本日、各国の「人間貢献指数(Human Contribution Index: HCI)」を公式経済統計に追加することを採択した。HCIは市場価格のつかないケアワーク・コミュニティ活動・芸術創造・ボランティアなどを時間と社会的影響で数値化する。提唱者の国連特別顧問は「GDPだけで豊かさを測る時代は終わった。AIが生産を担う世界では、人間の『貢献』そのものが文明の尺度だ」と述べた。日本のHCIは世界6位で、GDP順位(17位)を大きく上回った。

  2. 先進国の平均寿命が93.2歳に──AI医療が予防・早期発見を革新

    ジュネーブ発── WHOの最新報告で、OECD加盟国の平均寿命が2045年に初めて93歳を超えたことが判明した(2026年比+8.7歳)。AI診断による癌・心疾患・認知症の早期発見が主因。日本は95.4歳で世界2位。一方、医療費の個人負担は減少し、AI予防医療の普及で入院件数は2026年比で41%減少した。「健康で長生き」が当たり前になった世界では、「90代で何をするか」という新しい問いが生まれている。

  3. 「クラフト・ルネサンス」──若者の手仕事・農業・職人回帰が世界的潮流に

    東京発── 農林水産省が本日発表した調査で、日本の就農者数が2045年に168万人と、2026年比で2.1倍に増えたことが明らかになった。若者の新規就農者は10年前の4倍超。AI社会への「逆張り」として、土を触り、素材と向き合い、時間をかけて物を作ることへの需要が急増している。「HMタグ」農産物の平均単価は2.8倍で、農業は「食べていけない職業」から「選ばれる生き方」に変わりつつある。陶芸・木工・染め物・発酵食品も同様の傾向だ。

【2045年4月1日 悪いニュース】

AI格差と意味の危機、先進国と途上国のデジタル分断
Photo by Yannis H on Unsplash

📰 本日の主要ニュース(困難な面)

  1. AI格差「南北断層」が固定化──途上国はAI恩恵を受けられないまま2045年へ

    ナイロビ発── オックスファムの最新報告書は本日、「AIの恩恵が享受できているのは世界人口の31%に過ぎない」と警告した。サハラ以南アフリカ・南アジア農村部・中南米内陸部では安定した電力・インターネット・デジタルリテラシーが今なお不足しており、AI経済の恩恵はほとんど届いていない。先進国が「AIの果実」で豊かになる一方で、1日2ドル以下の生活をする人口は2026年比でほぼ変わっていない。「AIは既存の格差を拡大するアクセラレーターだった」と報告書は結論づけた。

  2. 「意味の危機」が世代全体を覆う──先進国の成人25%が「生きる目的を見失った」

    ロンドン発── 国際心理学会の大規模調査(50カ国・40万人対象)は本日、先進国の成人25.3%が「自分の存在に明確な目的や意味を感じられない」と回答したことを発表した。特に40〜60代(AI転換期に社会人として直撃された世代)と20〜30代(「仕事の意味」を最初から持てない世代)に高い。BIで衣食住が足りても「なぜ生きるか」を見失う人が急増しているという逆説だ。「ポスト物質時代のアノミー」と研究者は呼ぶ。

  3. AIガバナンス危機──最大のAIモデル3社が事実上の「経済インフラ」に、規制が追いつかず

    ワシントン発── 米議会公聴会は本日、Google・Anthropic・未来社(中国)の3社が運営する基盤AIモデルが先進国の「電力・金融・物流・医療」の核心部分を事実上制御する状態になっており、どの国の規制当局も有効な監視ができていない実態を明らかにした。「特定の民間企業が社会インフラそのものになった」という問題は、電力会社・鉄道・電話の「公益事業化」と同じ歴史的転換点にある。EU・日本・米国が初の「AI公益事業法」制定に向けて交渉を開始したと発表した。

【2045年4月1日】山田さくら(28歳)の一日──東京・「人間体験キュレーター」

若い世代が人間固有の仕事で生きる2045年の日常
Photo by bruce mars on Unsplash

午前7時。山田さくらは目を覚ます前に、目覚まし時計を止める。スマートフォンは枕元にない。意図的にそうしている。

さくらは2017年生まれ、2045年に28歳だ。彼女は「仕事に就く」という概念を大学時代にすでに疑っていた。「従来の雇用」が消えた後の社会に育ったため、「仕事をして給料をもらう」ことを当たり前とは思っていない世代の最初の一人だ。

大学では「社会デザイン学部」を専攻した(2030年代に急増した学部で、AI時代の人間の役割・コミュニティ設計・ウェルビーイング研究を扱う)。卒業後は定まったキャリアパスを歩まず、複数の「活動」を組み合わせて生計を立てている。

月収の内訳はこうだ。日本政府の「AI社会配当」20万円。「人間体験セッション」の報酬が月6〜10万円。地域コミュニティへの貢献でSCポイントが月3万円相当。合計29〜33万円。東京・高円寺の4.5畳のマンションで一人暮らし、食費は主に自炊で月3万円、趣味に2万円、残りは貯蓄と旅費に回す。

「人間体験キュレーター」という肩書きは、さくら自身が作った。具体的には、AIと話すことに慣れすぎた人々に「人間ならではの会話・共感・沈黙・笑い」を提供するセッションだ。1対1または少人数グループで週3〜4回、1時間3,000〜8,000円。「AI相談は24時間使えるが、人間の言葉で泣ける場所が欲しかった」という40〜60代の需要が想定以上だった。

――

午前8時30分。さくらは近所の銭湯へ行く。2045年でも銭湯は生き残っており、むしろ「デジタル・デトックス空間」として再評価されている。脱衣所でスマートフォンが使えないことが、逆に価値になっている。常連の70代女性と「最近の気候のこと」を話す。20分の他愛ない会話を、さくらは大切にしている。

午前10時。自宅に戻り、今日のセッションの「設計」をする。AIが分析・提案・要約をすべてやってくれるが、さくらは「あえてAIの提案を見ない」ことがある。「AIが最適解を出した後の会話は、どこか空洞なんです。私は最適でなくていいから、その人にしか言えない言葉が出てくる場所を作りたい」と言う。

午後1時。セッション1件目。クライアントは52歳の男性、元中間管理職。AIが業務を引き受けた後も役職は維持されたが、「部下がいない管理職」として3年を過ごし、2042年に早期退職した。BIで生活は成り立つが「自分が何者かわからない」と言う。さくらは1時間、ほとんど何も解決策を提示しない。ただ聞く。相槌を打つ。時々「それはつらかったですね」と言う。セッション終了時、男性は「なんか少し楽になった気がする」と言った。さくらも同じ気持ちになった。

午後3時。高円寺の商店街にある「人間手仕事市場(HM市場)」に立ち寄る。週2回開かれるこの市では、地元の手作りパン・陶器・天然染めの布・農家直送野菜が並ぶ。どれも「AI非介入」のHMタグ付きで、価格はスーパーの2〜3倍だ。さくらは小麦粉から作られた食パン(1斤700円)と、高齢の陶芸家が作った器を一枚買う。「高いけど、作った人の顔が見える物が好きなんです」。

午後5時。近所の子どもたちに「昔ばなし体験」を提供するコミュニティイベントに参加する。地域の老人が語り部として話し、子どもたちが聞く会だ。さくらはファシリテーターとして場を整える。SCポイントが付与される活動だ。今日の語り部は83歳の元タイピストの女性。「タイプライターを打っていた頃の話」をする。子どもたちには「タイプライター」も「タイピスト」も知らない言葉だが、目を輝かせて聞いている。

午後7時30分。夕飯は友人5人を自宅に招いて鍋をする。AIが生成したレシピは使わず、冷蔵庫にあるものを見て自分で考える。「料理のAIアシスタント使えばいいのに」と友人に言われるが、「考えるのが楽しいから」と断る。

午後10時30分。友人たちが帰り、さくらは今日のセッションのメモを手書きで書く。AIが自動でセッション記録を生成してくれるが、「自分の字で書いた言葉は自分に残る気がして」と言う。今日のメモの最後に一行添える。

「今日、52歳の田中さんが初めて笑った。それで十分だった。」

さくらは、田中誠という名前の元銀行員が2035年に同じことを日記に書いていたことを知らない。でも同じことを書いた。

「AIがすべてを最適化できる時代に、最適でない人間が最も必要とされる場所がある」
— 山田さくら(仮名), 2045年4月1日のメモより

まとめ──2035年から2045年に続く問い

AIが変えるのは「仕事の種類」だけではない。「なぜ働くのか」という問いそのものだ。

2035年に田中誠が問い始めたことを、2045年のさくらは生まれながらに前提にしている。その変化が、一世代で起きる。

あなたは今、どの時代に立っているか。そして10年後、自分に何が残っていてほしいか。

参考・出典(本記事のシナリオ構築に使用したデータ)

  1. How Will AI Affect the Global Workforce?(Goldman Sachs, 2023)
  2. OpenAI’s vision for the AI economy: public wealth funds, robot taxes, and a four-day workweek(TechCrunch, 2026)
  3. Results of the basic income experiment(Finland Ministry of Social Affairs and Health, 2020)
  4. What were the results of Finland’s basic income trial?(World Economic Forum, 2020)
  5. Artificial Intelligence and the Labour Market in Japan(OECD, 2025)
  6. Elon Musk’s fantasy future where work is optional(Fortune, 2026)
  7. Debatable: Universal basic income(Semafor, 2026)
  8. 77 AI Job Replacement Statistics 2026(DemandSage, 2026)
  9. Klarna CEO admits aggressive AI job cuts went too far(MLQ.ai, 2026)
  10. Labor in the Industrial Era(U.S. Department of Labor)